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FOCUS

〈ARCHITANZ 2020〉森優貴・新作『ボレロ』インタビュー

 アーキンタンツ設立20周年を記念し、〈ARCHITANZ 2020〉が来る8月に開催されることになった。演目は『ラフマニノフ ピアノコンチェルト第3番』『薔薇の精』『ボレロ』と『翁』というラインナップ。
 『ボレロ』は森優貴の新作となるが、森は同名作品を2016年2月にレーゲンスブルグ歌劇場ダンスカンパニーで上演、スタジオアーキタンツでもレパートリークラスとして取り上げた思い入れの深い楽曲である。また偶然にも、ウヴェ・ショルツ、マルコ・ゲッケなどドイツと関わりが深い振付家の作品が揃うこととなった。
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 ー 新作『ボレロ』の前作との違いとは?
 前回同様ラヴェルの楽曲になりますが、まったく別の『ボレロ』になります。
とはいえ同じ振付家のぼくが創作するので、リズムの取り方、身体性などの捉え方は同じかもしれませんが、今回の出演者数は、前作の3倍ぐらい多くなるということもありますし、ダンサーが一人ひとり違えば作品の方向性も変わってきます。
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 ー 『ボレロ』の音楽から得たインスピレーションとは?
 エロティックさ、力強さがあり、単調なリズムから持って行くパワーはもちろんありますよね。それは個人的なインスピレーションというより、総体的な曲の印象に近い。効果は強いけど、主張は強くない。主張がそこまで強くないからこそ、たどり着ける自由度がある。どんな色にも染めることが可能な音楽だと思っています。
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ー 再び『ボレロ』を創作することになった経緯は?
 じつは、新作を発表することは、ぼくの帰国が決定する前から決まっていました。
スタジオアーキタンツがパイオニア的存在として発展してきたことと、垣根を越えダンサーたちが育つ環境を提供してきた功績は、個人的にも素晴らしいことだと思います。
 
 この意味ある20周年記念の公演に振付作品を上演するとなったとき、どういった世界観を掲げ、振付をしたいというかという個人的な視点や欲求ではなく、20周年のお祝いに相応しい作品を考えることにより、自ずと方向性が自然と絞られてきました。ラヴェルの『ボレロ』は、万人に親しみがある楽曲で、心に響く名曲ですよね。時代を超え、人々に勇気や元気を与え続けている音楽です。
 そして、ぼく自身、今後30人近くの選りすぐりのダンサーを振付けられる機会があるのだろうか、と考えたとき『ボレロ』ともう一度向き合いたい気持ちがありました。
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 ー 同じ音楽でまったく別の新作を創る難しさとは?
 レーゲンスブルグ歌劇場では、ほとんど再演をしてきていません。
それは、出演者が変わると作品の持つ性格、質が違ったものになってしまうからです。ぼくの中では再演というと、”古着”になってしまう感覚ですね。一度着て、一度洗って、もう一度着るという感じです。それなら新しいものを創った方がいい、と考えています。ですので、そこで言う難しさはまったくありません。
 
 
 ー ダンサーのどんなところを重視して選んだのでしょう?
 今回のオーディションは2日間の開催で90人近く集り、段階を経て30人を選抜しました。オーディションとは非日常な場です。出場者はそれぞれベストを出し尽くそうとし、緊張感が続くとてもきつい精神状態です。「踊りたい」という強い気持ちがどのぐらい継続されるかも見ます。
 スキル的には、短時間で何を振付家が要求しているかを一語一句ちゃんと話が聞けているか、それを吸収し、どのように提示できるかといったことも見ます。そして、他の人に注意していることも、自分のこととして聞けているかも重要です。ダンスを通して、人間性や性格なども見ていますね。
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 ー オーディションで”人間性”も見えるのだろうか?
 もちろんです。ぼくのような審査員は少数派だと思いますが、芸術監督をしていたときの悪いクセかもしれない(笑)。レーゲンスブルグ歌劇場にいたときから、毎朝まず行う作業が、人間性のスクリーニングでした。
 作品に対してどれだけ自分を賭けられる覚悟があるのか。その準備ができているか。自分のエゴを消して作品に貢献できるか。ただ指示に従うだけでなく、自分の立ち位置や周囲が見えているか。
 数ヶ月間かけて作品を創るとなると、進行スピードも日々違います。自分の課題は何なのか、チームの一員としての自分のあり方は何か。それを把握して参加できるダンサーが理想です。
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 ー これまで観た『ボレロ』のなかで印象的な作品は?
 舞台より映画の「愛と哀しみのボレロ」のジョルジュ・ドンの印象がやはり強いですが、僕の師であるシュテファン・トスがドイツのキール歌劇場で1999年に初演し、現在も様々なカンパニーにより上演されている『ボレロ』がまたすごかったです。
 女性ダンサー全員がおばあちゃんの設定で、白髪のカツラをかぶっているのですが、ストーリーが『毎日3時に集まって毎日同じレコードを聴いてケーキを食べる』という設定で、それでいて段々と激しく踊るコミカルな作品です。その発想が衝撃的でしたね。
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 ー これまで多くの同名作品が創作されましたが、プレッシャーは?
 まったくないですね。2016年に『ボレロ』を発表したとき、ぼくの作品を観た評論家が「20世紀のベジャールの名作から、ようやく出た21世紀の『ボレロ』の代表作は、森優貴の作品だ」と評価してくれましたが、どこをどう評価してくれたのかは分からないです。
 
 この『ボレロ』は、2016年のそのときの自分の感覚を提示した作品だから、2020年も今のぼくの感覚、新しいメンバーでアップデートしてゆく作品になるはず。常に新しくなっていく、変化してゆくのが当たり前だと思っているので、〈ARCHITANZ 2020〉の『ボレロ』は他では上演できない貴重な作品になると思います。
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 ー 仕上がりへの予感はどうでしょう?
 森優貴の身体言語もある程度提示しながら、振付家とダンサーとが、お互いをどういう風に発展させることができるかですね。舞台美術はアーキタンツ一級建築士事務所の設計メンバーが担当します。音楽、美術、照明があって、舞台にダンサーを置いたときどんな動きをしてほしいか、どういう衝動が自分の中で起こるか、毎回変わってくるのでそれも楽しみにしたい。
 
レーゲンスブルグ歌劇場 2018年『死と乙女』 Photo:Johen Klenk

レーゲンスブルグ歌劇場 2018年『死と乙女』
Photo:Johen Klenk

公演情報

アーキタンツ20周年記念公演〈ARCHITANZ 2020〉
2020年8月8日 (土) 、9日 (日)新宿文化センター大ホール
http://2020.a-tanz.com/