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~ホフマン物語の3つの恋で魅せたキャラクターたちの妙~
新国立劇場バレエ団の新シーズンが、ピーター・ダレル振付1972年初演作品『ホフマン物語』で開幕した。
まず挙げたいのは、ダンスシーンの豊かさ、構成の面白さ。舞台を深く使うことで群舞は広がりを持ち、ダンサーたちの出し入れ、ソリスト陣との組合せ方も多彩。スパイラルを多用し、複雑に絡み合うパ・ド・ドゥは感情豊か。
新制作された川口直次の装置、前田文子の衣裳も良い。互いに調和しながら、各幕で色調やスタイルの差異をきちんと見せ、第1幕はロココ調の淡い色彩で行き過ぎた遊びを描くなど、文字通り色を与えて、作品に命を吹き込んだ。特筆すべきは第2幕、幻想のバレエシーン。沢田祐二の照明が、病弱なアントニアが見た夢の世界をやさしく照らし、色調の変化で幻想性を増幅させた。色を受けたモノトーンのシックなチュチュも美しい。構成・振付の妙味、ダンサーたちの高い表現力もあり、出色のシーンとなった。ただし第3幕は、振付自体にうねりがあるので、衣裳はもっとシンプルでも良い。観る者の視線が鏡に向かいにくいのも気になった。
初日のタイトル・ロールは福岡雄大。繊細に、ダイナミックにとメリハリをつけ、悲哀を描き出したが、プロローグとエピローグでは、人生に疲れた老人にとどまらず、謎めいた色気が欲しい。ホフマンを陥れる四役を演じたマイレン・トレウバエフは役どころをよく抑え怪演。オランピアの長田佳世は、可憐ながら魂を持たぬ人形の空疎さを、アントニアの小野絢子は、透き通るような儚さと、幻想の中での生き生きした姿の対比を、ジュリエッタの米沢唯はホフマンの心を奪わんと全身をぶつける意志の力を、ホフマンの3つの恋のパートナーはそれぞれが作品の中でキャラクターの役割をよく捉えながら、個性や独自の解釈が感じられる表現で魅せた。
〈2015年10月30日 新国立劇場オペラ劇場 / 文・守山実花〉
写真提供:新国立劇場 撮影:鹿摩隆司
【舞踊評論家/守山実花】
新聞、雑誌、公演プログラム、映像ライナーノートなどに作品解説、インタビュー記事、公演評などを執筆。これまでに200人を超えるダンサー・振付家へのインタビュー取材を行っている。現在は尚美学園大学非常勤講師。清泉女子大学生涯学習講座ラファエラアカデミアなどでバレエ鑑賞講座を担当。著書「バレエに連れてって!」「もっとバレエに連れてって!」(青弓社)、「食わずぎらいのためのバレエ入門」(光文社新書)、監修・著「魅惑のドガ エトワール物語」(世界文化社)、「バレエDVDコレクション」監修・著(デアゴスティーニ・ジャパン)ほか。