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INTERVIEW

森山未來Moriyama Mirai

俳優・ダンサー・クリエイター

「カテゴライズしない、シンプルな個人になってゆく」

 ” 森山未來 ”は驚異である。映画ファンからすれば、「なんてダンスが上手いんだ!」と感嘆する人もいるかもしれない。一方で、ダンスファンからすると、「こんなに多くの映画に主演しているのか」と感心するかもしれない。役柄に演奏が必要とあらば楽器を習得し、歌もただ上手いというレベルでなく、プロのソロシンガーとしても遜色がないほど。2013年から1年間イスラエルのテルアビブで本格的にクリエイターとして始動し、英語で作品紹介もスピーチする。2014年には東京都現代美術館でダンス・キュレーターとしても参画し、報道陣向けにレクチャーを行った。森山未來を前にしては、マルチという言葉が陳腐に聞こえてくる。

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  「どの分野も得意だと思っていない。運動神経自体はそんなに高くないです。ポテンシャル自体もそんなにないし、多動性なんですよ、おそらく(笑)」とジョーク交じりに話すが、11月現在シアターコクーンで本番中のミュージカル『メトロポリス』の舞台直後は、12月に天王洲・寺田倉庫とスパイラルガーデンでの公演、翌年1月から2月にかけて2つの舞台が横浜赤レンガ倉庫で上演される。そんな超・多忙極まるスケジュールの最中、快くインタビューに応じてくれた。

エラ・ホチルドとの出会い 

 2017年1月の横浜赤レンガ倉庫での『JUDAS, CHRIST WITH SOY ユダ、キリスト ウィズ ソイ~太宰治「駈込み訴え」より~』に先駆け、今月12月にスパイラルガーデンで異ジャンルのミュージシャンを交えたその日限りのダンスと音楽の競演が開催される。

 5人の音楽家とのインプロヴィゼーションということだが、どんな舞台を期待できるのだろうか?
「もともとある作品を一度解体してみたい。違う切り口が見えた方が面白い、という思いがあります。横浜赤レンガ倉庫で上演する作品『ユダ、キリスト ウィズ ソイ』を、パーツごとに解体してミュージシャンたちに演奏してもらいます。
 ダンサーの踊るシーンは決まっていますが、順番は決めていません。どんな音楽が来るのかをはっきりさせず、なんとなくその音楽にふっと入ってゆく。スパイラルガーデンの抜けた空間を利用したい」
 音楽とダンスを合わせるのはほぼ当日というが、見せる方も見る方も二度と味わえない誕生の瞬間を共有する一体感が味わえそうだ。

 本作のモチーフになっている太宰治の『駈込み訴え』に魅了されたというが、その理由は?
「中学生ぐらいからの太宰治ファンですが、普通に宗教の観点からみると、ユダは最終的にキリストを裏切ってしまう悪の役割でしかない。聖書にはそういう風にしか描かれていないし、悪・弱者でしか見られていない対象を取り上げたこの短編がとても面白かった。
 ユダの愛と憎悪が反転して話が進行してゆくリアルさがあって、愛と憎は紙一重、誰かに心を傾けるという意味では同じ感情から生まれていると思う。ずっと以前から何かの形で作品化したいと思っていました」

 それが形となったのがエラ・ホチルドとの出会いだった。
「エラのソロ作品をイスラエルで観てからですね。彼女とだから得られた作品感がある。インバル・ピント&アヴシャロム・ポラック ダンス・カンパニーからバットシェバ舞踊団を経てフリーになったダンサーですが、自分で書いたテキストを読んだり、唄も歌うし、演奏したりもする。小道具も使ったりして、あぁ、トータルアートワークをしたいんだなと、彼女の感受性がはっきり伝わってきた」

「WITH SOY = しょう油味」の公演!?

 「イスラエルでエラと再会して『駈込み訴え』を提案しました。彼女の答えは『興味深いけれど、イスラエルにはアンチ・ジューイッシュ(反ユダヤ主義)やいろいろな思想の人々がいるから、ここで上演するのは危険』と。でも、お話しとしては面白いからインスパイヤされた作品として公演をしました。作品内容を明確に話してはいるけれど、キリストもユダの名前を言わない。キリストを『彼』とすら言っていない」

 それはやはり、宗教的争いを考慮しているからだろうか。
「それもありますが、『with Soy』(soy=大豆・醤油の意)は、 しょう油がかかっているという意味なんです(笑)。日本仕様だよというところのエクスキューズ。日本人がユダとキリストのことを考えたらこうなります、という想いを込めているんです」

 本作の初演は2014年にイスラエル・テルアビブで迎え、2015年は愛媛県の内子座にて胡弓・笛・太鼓奏者の吉井盛悟が加わった。
「テルアビブでは既存の音楽を使ったのですが、内子座と盛悟さんの音楽が共鳴。相性が良すぎたぐらい(笑)。彼と3人で作り上げられた作品でした」
 そして今回3回目となる舞台は横浜赤レンガ倉庫。
「もともとエラと僕との対話からはじまった、分かり合っているような分かり合えていないような、というふたりのコミュニケーション/ディスコミュニケーションが、僕とエラとのダイヤローグでもある。日本語とヘブライ語の隔たりとか、ドキュメンタリー性も含めて。そのふたりの対話に戻りたい」

 そこに、音楽・作曲家の蓮沼執太の登場となる。
「執太さんは、アブストラクトもしっかり作り込んだ音も創る。作品の中に上手く溶け込んでくれる感じがしました。聴こえない音が聴こえたみたいな、僕とエラとの対話で透けて見えてくれるものが浮き上がってこないかなと。内子座でのニュアンスを活かしつつ、執太さんならではの音楽を入れ込みます」

 内子座での公演は、発売後に即完売となり好評も得たが、公演内容を「更新し続ける」のはなぜだろう?
「初演の反響が良かったりすると、再演は初演より安心感があるし、初演を破壊することなくトレースする感覚です。なので僕は、再演という響きは好きじゃない。コピーペイストは劣化するからです。
 それに相反するようですが、創った作品は自分たちのレパートリーとして、財産として残る。それは好きな感覚です。でも上演のたびに場所もキャストも変わって、そのときのメンバー、その瞬間からクリエイティブティが構築されてゆくので、だから更新し続けるんです」

今と未来とこれから

 「何を美しいと感じ、何を衝撃だと思ったか、それを常に感じていることが大事」と以前語っていたが、最新のアンテナに反応したものは?
「ダミアン・ジャレの振付作品『Vessel』(ベッセル:船、器、身体の意)に出演させてもらったことですね。ダミアンは日本古来の文化をリサーチして、人間の身体を土偶化しようとした作品なんです(笑)。
 日本はシャーマニズム、いわゆる”降りてくる”という意識が強くて、人間の身体=器という感覚がある。対して西洋は実存主義的。僕は、海外に1年ほど生活していたことで、日本人としてのシャーマニズム的な感覚から、もっと実在しているような居方ができないかなと考えていた。でも『Vessel』に出合ったことで、また”器”に戻ってきちゃったような逆輸入的な感覚が面白かった」
 過去のインタビュー記事の「自分という存在を消さずに、このキャラクターがセリフを喋ったらどうなるだろう」に繋がってゆく。

 もう一つある。最先端のロボットと共演したというのだ。
ロボット工学者・石黒浩教授(大阪大学・知能ロボット学研究室)が製作したロボットを、フランス人アーティストのジュスティーヌ・エマが撮影。それを13分のビデオインスタレーションとして森山未來の協力のもと『Reborn』という作品に”生まれ変わった”。 

「そのロボットが非常に面白くて、その場の環境を知覚しながら抽象的にではあるんですが雄弁に身体を動かすんです。そのロボットのようにいかに空間に対して感覚的に動けるか、リミットのない数値化で動けるかと模索しているうちに、自分には色々な規制がかかっているんだなということが分かってきて、同時にロボットと人との距離感、ロボットというものの概念自体の線引きが難しいな、とも感じました。
 人間の意識下では、アルゴリズム(問題を解決するための方法)を複雑化させないように抑制している規制がある、というような話を聞いたことがあります。それはロボットにとっては”バグ ”であり、人間にとっては” 悩む ”ということなのかも知れない。さらにそれを学習できるロボットが生まれれば、僕らの身体はもはやロボットと同じように” 器 ”でしかないのではないか。だからこそロボット工学が日本で発展してゆくんだな、などといろいろな想像が働きました」
 
 その言葉に、『PLUTOプルートゥ』のアトム役で主演した姿が思い浮かぶ。興味の幅も深さも計り知れず、活動の領域も無限な彼が、一番大事にしているものはなんだろう。
「なんでしょうね。ジャンル分け・カテゴライズしないシンプルな個人になってゆくことかな。ジャンルという垣根がどんどん無くなってゆく感じは、ずいぶん前から感じていました。社会という集団からだんだん個人になってゆく、でもその個人にも限界があってまた社会化してゆく。でも、ただ繰り返すのではなくて螺旋を辿りながら何かが変化しながら僕らは進んで行く。そう信じて、日々を生きていきたいですね」

 

C) Takao Sakai

C) Takao Sakai

 

 

==プロフィール==
1989年からジャズダンス、1991年からタップダンス、1992年からクラシックバレエとヒップホップを始める。2011年、2012年シディ・ラルビ・シェルカウイ 演出・振付『テヅカ TeZukA』に出演。ミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』、2013年ミュージカル『100万回生きたねこ』に主演。2013年から約1年間イスラエルのダンスカンパニー、インバル・ピント&アブシャロム・ポラックに文化交流使として派遣。、2014年東京都現代美術館の「新たな系譜学をもとめて」でインバル・ピント&アブシャロム・ポラック・ダンスカンパニーの『WALLFLOWER』に出演、ダンスキュレーターとしても企画・講演。Dance New Air 2014の『談ス』、2015年『プルートゥ PLUTO』、『死刑執行中脱獄進行中』に主演。2016年名和晃平×ダミアン・ジャレ『Vessel』出演、舞台『メトロポリス』に主演。2014年ミュージカル『100万回生きたねこ』で第21回読売演劇大賞・優秀男優賞受賞。2016年日本ダンスフォーラム賞受賞。

公演情報

『SAL ―Dance and Music Installation』
2016 年12/27(火)~29(木)スパイラルガーデン
http://www.spiral.co.jp/sal

横浜ダンスコレクション2017プレ事業
『JUDAS, CHRIST WITH SOY ユダ、キリスト ウィズ ソイ~太宰治「駈込み訴え」より~』
2017年1/4(水)~6(金) 横浜赤レンガ倉庫1号館 3Fホール
http://akarenga.yafjp.org/jcws/2016/