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INTERVIEW

米沢唯Yonezawa Yui

新国立劇場バレエ団プリンシパル

「生きることの喜びと悲しみを一身に踊る。そのために踊っている」

19歳でアメリカ・サンノゼバレエ団のディレクターにスカウトされ入団。数年経験を積んだのちに帰国し、2010年に新国立劇場バレエ団にソリストとして日本で再スタートを切る。その翌年には新作バレエ『パゴダの王子』で主役のさくら姫に抜擢される。その後、ほぼすべての演目で主演し、同バレエ団を牽引するトップバレリーナとなる。

 米沢さんスマホカバー

 

  「いつか踊りたい」と願ったジュリエット役も2016年10月に実現した。2016年3月には振付にも挑戦し強烈な印象を残した。日々輝きを増し続けている新国立劇場バレエ団プリンシパルの米沢唯の素顔に迫る。『ロメオとジュリエット』の舞台を終えて、どのような感情を抱いたのだろうか?

舞台上の奇跡

 「一日一日幕が降りるごとに終わってしまうという淋しさがありました。大切な時間が一瞬一瞬過ぎていってしまう。集中して踊っているのですが、その裏側では、終わっていってしまう、これで最後なんだという思いがありました。終演後の一週間以上は脱力感、虚無感があって、現実に戻ってこられない感覚がありました」

 ロメオ役のワディム・ムンタギロフとは『眠れる森の美女』『白鳥の湖』でも共演しているが、彼の印象は?
「はじめて『眠れる森の美女』でリハーサルしたときに 世界のワディムさんにこんなこと言っては失礼かもしれないのですが、”共震”というものをすごく感じたんです。共に震えるというか、踊っているときに身体が向く方向が一緒という感じでした。そういう人と踊れるのは幸せなことだなと」

 『ロメオとジュリエット』でのパートナリングはどうだったのだろうか?
「舞台上でふたりで向き合ったときに、世界でたったふたりしかこの世にいないという瞬間がありました。リハーサルでは味わえない、舞台の上でしか生まれない感覚です」

自分自身の課題

 その舞台の後の11月は〈Dance to the Future Autum 2016〉で『Improvisation 即興』に出演した。
3日間の公演でそれぞれに異なるミュージシャンたちが舞台上で演奏し、ダンサーたちと即興でクリエーションする画期的な企画。6名のキャストのうち、女性は米沢のみの出演だった。
「紅一点というのは面白い立場なのかな、と。ちょっと動くとガラッと雰囲気が変わっていく。そういう存在のキーポイントとしているんだろうなという自覚はしていたのですが、楽しい反面プレッシャーでした」

 男性キャストたちが常に米沢の動きに注目している感じもあり、演劇的要素もあった。
「共演者との事前の打ち合わせはなしというルールだったので、その場の雰囲気で動く。でも事前に何も考えてないと不安なので色々頭の中で準備をしていたんですが本番はまったく出てこなかったです。衝動的に動いてその場で次に切り替えるの繰り返しで、記憶がどんどん塗り変わってゆく。その場その場で必死だったので何をやったのかほぼ記憶がないです(笑)」

 アドバイザーの中村恩恵からはどのような助言があったのだろう?
「『みんなで動きを創っていく中で、目線の交わし方など、ドラマ性を感じさせる工夫があると面白いわね。私たちダンサーはただ歩いているとか帽子を拾うとかでも全部ダンスになる』といったお話がありました。ただ立っているだけでもダンスになるし、たったひとつの動作でもダンスになる、そうしなければいけない、ということを学びました」

 同プログラムで踊った木下嘉人の振付『ブリッツェン』は、2名の男性ダンサーと米沢の3人のキャストによる新作。米沢の伸びやかな動きとキレが痛快で最後まで目を離せなかった。こういった役柄が特にない作品の取り組み方は、古典作品とは違ってくるのだろうか?
「コンテンポラリーの方が役柄について深く考えます。男と女が踊るのであれば、どういう関係性であるのかと。決まっていない分、自分の中でどう創り上げるべきか。ただ身体を動かして踊る作品にはしたくない。踊り手としても充実感があるものにしたい」

 しかし、その考えを共演者と共有することはないという。
「私の解釈は振付家の意図と外れているかもしれないので、私の中で作品を充実させるためだけに必要なものです。それを共演者に伝えると余計なものがでてきてしまう可能性があります。振付家の意図は外したくないので、私自身の課題として捉えています」

忘れられない舞台

 新国立劇場バレエ団の入団が、ダンサーとしてひとつのターニングポイントとなったと語るが、これまでで一番困難だった出来事はあるのだろうか。
「いつも苦しいです(笑)。結局自分と向き合うことになるので悩んだり苦しんだりの日々ですが、でも過ぎてしまったことは良い風に考える性格なので(笑)、目の前の舞台に必死に取り組むのみです。
 役が自分の中でしっくりこないまま踊っても充実感が得られません。第三者から見て問題がなくても、たとえばリフトなど自分の中でタイミングが合っていない、パートナーとの身体のコミュニケーションが合っていないといった課題が毎回あります。自分はもっとできるはずと信じてレッスンするのですが、でもできなかったりの繰り返しです」

  2016年にはじめて振付をした『Gisell』は斬新で強いインパクトを残しましたが、今後の振付への意欲は?
「また創作してみたい願望はあります。ですが、新しいものを自ら創るのはすべてを注ぎ込む覚悟がなくてはいけない。どっちつかずになるのは避けたいです。踊ることが楽しくて、踊りで表現したいという気持ちが強いので、今はダンサーとして集中したいと思っています。
 この世界に生きていて、生きることの喜びと悲しみを一身に踊る。そのために踊っていると言えるかもしれません」

 「自分の身体が壊れないのだったら一日中でも踊っていたい」というバレリーナだが、本番前のリラックス法など、自分なりのこだわりはあるのだろうか。
「舞台の前はなるべくほがらかな気持ちでいたいと思っているのですが、周りの人からは、私はだんだん言葉が少なくなって”話しかけないでオーラ”が出ているみたいで、ときどきコワいって言われます(笑)。いつもと同じように平常心でいようと心がけています」

  自身のダンサーとしての強みを聞いてみると「体力があるということかな。それぐらいしか思いつかない」と非常に謙虚な回答だが、伸びやかな表現力と技量をみると、スポーツ万能な学生だったのだろう。
「そんなことないです。走るのは遅いし、テニスのラケットにボールは当たらない、バレーボールのサーブは入ったことがない、特に球技は全然ダメでした(笑)」

 12月の『シンデレラ』の後は、2017年2月に『ヴァレンタイン・バレエ』と『コッペリア』のふたつの舞台が控えている。『ヴァレンタイン・バレエ』では、「テーマとヴァリエーション」、パ・ド・ドゥ集から「ソワレ・ド・バレエ」と「タランテラ」に出演する。3人の男性ダンサー(福岡雄大・奥村康祐・福田圭吾)と共演することになるが、それぞれの相手役の特長を語ってもらおう。
「3人とも関西人ですが、身体が切れて動きが早い、きっちりしたテクニック。福岡さんは存在自体が熱くて、清濁併せもつ厚さのあるダンサーだと思います。奥村さんは爽やかで軽やか、優しさを持っていて、福田さんは身体にリズム感があって”トメ・キメ・ハネ ”があるダンサーです」

 そして『コッペリア』では、スワニルダ役デビューとなる。
「じつは小学生のときに、ローラン・プティさんがコッペリウスを踊っている舞台を観ているんです。コッペリウスが人形と踊っているシーンと人形が壊れてコッペリウスが立ち尽くしている場面が忘れられなくて、舞台が終わったあと『ねぇ、あのおじいさんが可哀想だよ』と両親にずっと言い続けていたらしいです。まだそこからアップロードしていないので(笑)、心に傷が残ったような忘れられない舞台のひとつです。
 私もそんなふうに人の心に残る舞台をこの劇場から生み出したいと思っています」

 

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==プロフィール==

塚本洋子バレエスタジオで学び、2006年サンノゼバレエ団に入団。10年にソリストとして新国立劇場バレエ団に入団。『パゴダの王子』で主役デビュー。『眠れる森の美女』『白鳥の湖』『くるみ割り人形』『ドン・キホーテ』『ジゼル』『カルミナ・ブラーナ』ほか数多くの作品で主役を踊る。13年プリンシパルに昇格。04年こうべ全国洋舞コンクールクラシックバレエ部門ジュニアの部第1位、全国舞踊コンクールジュニアの部第1位、ヴァルナ国際バレエコンクールジュニアの部第1位、05年世界バレエ&モダンダンスコンクール第3位、06年USAジャクソン国際バレエ コンクールシニアの部第3位。14年中川鋭之助賞受賞。

公演情報

新国立劇場バレエ団『ヴァレンタイン・バレエ』
2017年2/17(金)、 18(土) 新国立劇場オペラパレス
http://www.nntt.jac.go.jp/ballet/performance/151224_007965.html

新国立劇場バレエ団『コッペリア』
2017年2/24(金)~26(日)新国立劇場オペラパレス
http://www.nntt.jac.go.jp/ballet/performance/151224_007966.html