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INTERVIEW

清瀧千晴Kiyotaki Chiharu

牧阿佐美バレヱ団プリンシパル

「落ち込んだあとは、今までよりもさらにステップアップできる」

「いつどんなときも、いつも通りにレッスンを受け、常に平常心を保つ生活を心がけています」と語る牧阿佐美バレヱ団・プリンシパルの清瀧千晴。ヴァイオリニストの父親を持ち、高校時代までピアノとチェロを習っていた経験がある。ピアノは今でも親しんでおり、ショパンのエチュードを指慣らしに練習し、クロード・ドビュッシーが好きで何曲かレパートリーを持つ腕前。最近では、CMやドラマの主題歌などいいなと感じた曲の楽譜を探すことも楽しみの一つ。

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 2016年は牧阿佐美バレヱ団創立60周年という大きな節目を迎え、2017年は同バレヱ団に入団してからちょうど10年となるが、10年前に想像していた頃と現在とを比べてどんな思いがあるのだろうか。

子どものころに観た世界へ

  「その日その日をただひたすら頑張ってきましたが、10年経つと色々なものが見えるようになリました。入団当時は頂いた役をこなすのに必死で、日々不安と闘いながらやってきた感じです。ここまで主演させて頂けると思っていませんでした。今思い返すと、すごく恵まれた環境の中にいさせてもらえたんだなと実感します。その一方、心の片隅に一度外の環境で世界を広げたいという思いもありました」

 その秘かな願いは、ボリショイ・バレエ学校に1年間留学という形で実現する。
「留学は17歳のときですが、そのときは高校2年生。高校の普通科に通っていたのでその期間に海外に行くというのはかなり大きい決断でした」

 自身の強い希望があっての長期留学。
「コンクールに関しては、周囲に進められて出場を決める感じだったのですが、子どものときに観ていた映像の世界に行けるんだな、という思いが強かったです。小さいころビデオテープが擦れきれるほど観ていたボリショイ・バレエの『くるみ割り人形』。まさかその世界に行けるなんて思っていなかったので本当に嬉しかった」

 しかし、それだけではない。そのDVDに主演していたナタリア・アルヒーポワが学校公演のリハーサルを見に来てくれたという、思いがけないプレゼントまで付いてきたのだった。

「モスクワではバレエダンサーの環境がまったく違っていて、地域とバレエの関係性も含めて舞台の創り方、演出、ダンサーたちの雰囲気も全然違っていました。良い面やそうではない面も含めて、ボリショイ・バレエ学校の留学で世界観が広がりました」

 その言葉通り、日本ではなかった形の公演を経験したのもボリショイ・バレエだった。
「ボリショイ劇場だったのですが、舞台で踊った後に、そのままピアノをステージに出して演奏するという作品に出演しました。お客さんもとても喜んでくれたので良かったのですが、ちょっと大変でした(笑)」

苦悩から新しい役への挑戦

 だが帰国後に、苦しい経験が待っていた。
「怪我をして日本に戻ったのですが、復帰後はじめての主演作品で、自分としては全力を出したつもりでしたが終わって振り返ってみたら自分でも、周りからの評価もあまり芳しくなく、精神的にもダメだなと。怪我が完治していなかったこともあると思いますが、自分の身体のことをちゃんと把握できていなかった」

 両親には実はこんなことを言われていたのだという。
 「僕はコンクールで結果が出るのも遅かったこともありますが、両親からは、ある程度身長が伸びなかったらバレエはやめなさいと言われていましたし、そもそもバレエで生活ができるとは思っていませんでした。
 最近は女性の身長も伸びてきていますし、本来はこの体格だと主演は難しいと思いますが、それでも出演させてもらえているのは本当にありがたいです」

 一方で、「落ち込むこと」に対して、非常に前向きな姿勢に驚かされる。
「落ち込んだあとは、今までよりもさらにステップアップできるということが経験上あるので、負のエネルギーをプラスに変えられるようにしたいと思っています。常に落ち込みますよ(笑)。レッスンでも毎回あります。でも、それがモチベーションになっていて、それがないと続けられない。
 ボリショイ・バレエに行ったとき、ロシア人の容姿や体格が自分とは全然違うことにショックを受けました。でも、自分にある良いところをどうやって生かそうか、足りない部分をどうやって補うかを考えるきっかけになりました」
 
 その積極的な姿勢は、2016年の『ノートルダム・ド・パリ』公演で新たな扉を開かせた。フロロという、聖職者でありながら愛する女性を自分のものにしようと暴走する難しい役どころに抜擢。
「リハーサルは想像していた通り大変で、すごく悩み苦労しました。でも自分とはかけ離れたキャラクターの役をいただけるのはダンサーにとって名誉なことだと思います。
 本当に充実した時間を過ごせたし、自分では出せないと思っていたエネルギーが出せたと思います。今まで表現してこなかった感情を、いつもとは違う力の入れ方や顔の角度で”型”として表現することを学べたのは大きな収穫でした。
 本番では違和感なくストーリーの中に生きられたのかなと思います。はじめてバレエを観に来てくれた方が、しばらく別人だと思って観ていたと言っていました(笑)」

受け継ぎたい両親からの贈り物

 そして、3月4日と5日には『三銃士』のポルトスに出演する。
アトス・ポルトス・アラミスの三銃士が、フランスの片田舎からやってきたダルタニヤンを仲間に引き入れ活躍するアドベンチャーストーリー。三銃士の剣の戦闘シーンや、歴史上の人物も登場するエンターテイメント感満載のバレエ作品である。ちなみに、この作品が観られるのは日本では同バレヱ団のみ。

 2010年、2014年、2017年と続くポルトス役の出演であるが、解釈が変わった部分など、変化が感じられるところは?
「最初は自分のやるべきことに必死でしたが、2回目は少し余裕が出てきました。無駄な力を使わないなど、以前よりは踊り方も変わってきていると思います。今回は役のイメージや舞台背景など、周りの役との関係性をもう少し掘り下げて踊りたいですね」

 ダルタニヤンには前回と同様、元英国ロイヤルバレエ団・ プリンシパルのイヴァン・プトロフと、菊地研がダブルキャストで出演する。ふたりのダンサーの魅力はどんなところにあると感じているだろうか。
 「プトロフさんは世界的なダンサーで、正確なポジション、綺麗なライン、それと自然な表現力も持ち合わせていて端正な容姿でバランスのとても良い素敵なダンサーです。
 研さんは、動きのキレがどの役でも光る。内面から出る表現、感情を出して舞台に臨むところがすごく魅力的なダンサーです。動きで団員たちを引っ張ってまとめてくれる。おのずとみんながやりやすい雰囲気にしてくれるんです」

 ポルトス役の出演は3回目とはいえ、本番前の緊張を解くにはどうしているのだろうか。
「深呼吸を3回してから舞台に立ちます。石井はるみ先生から、深呼吸をしてしっかり目を開けて出なさいと言われ続けてきたので、それだけで大丈夫です(笑)」

 今後の夢について聞いてみると、一度は踊ってみたい役に、牧阿佐美バレヱ団の公演として主演していない3大バレエの『眠れる森の美女』と『白鳥の湖』の王子役を挙げた。そしてさらに大きい視点で語る。

「僕は両親の影響でバレエだけではなく、色々な舞台を鑑賞させてもらえました。それが自分の創造性や感受性を育ててくれたのだと思います。でも現代は情報化社会なのでそういう機会が減ってきている気がします。
 芸術は教育として必要なものだと思います。総合芸術と言われているバレエを通して、より多くの人に舞台を楽しんでもらえたらいいなと思っています」

 

C) Takao Sakai

C) Takao Sakai

 

==プロフィール==
 石井はるみバレエスタジオ、第24期AMステューデンツモスクワ・ボリショイバレエ学校留学。橘バレエ学校卒業。2007年牧阿佐美バレヱ団入団。『くるみ割り人形』『ドン・キホーテ』『ロメオとジュリエット』『リーズの結婚』『三銃士』などに主演。2003年埼玉全国舞踊コンクールジュニアの部第2位、2004年埼玉全国舞踊コンクール1部第1位。2012年スワン新人賞。

公演情報

牧阿佐美バレヱ団『三銃士』文京シビックホール 大ホール
2017年3/4(土)、5(日)
http://www.ambt.jp/perform2.html