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INTERVIEW

黒田育世Ikuyo Kuroda

BATIK主宰 振付家・ダンサー

「ダンサーほどかっこいい職業はない」

6歳で谷桃子バレエ団に入団して以来、大学卒業までクラッシック・バレエ一筋に打ち込む。大学時代のロンドン留学をきっかけにコンテンポラリーダンスの世界に引き込まれ、振付家としても始動する。2002年に初の振付作品『SIDE-B』でダブル受賞を果たし、同年の4月には女性だけのダンスカンパニー「BATIK」を設立。2003年のトヨタ・コレオグラフィーアワードのグランプリで「次代を担う振付家賞」を受賞。2004年に『花は流れて時は固まる』『SHOKU』作品の「第4回朝日舞台芸術賞」を受賞するなど、日本を代表するダンサーの一人として注目を集めている。

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 その黒田育世の最新作、伝統と創造シリーズ vol.9『老松 -OIMATSU』の創作への想いなどを語ってもらった。

愛でることを大切に 

 「アーキタンツのアーティスト・サポート・プログラムからサポートを頂いておりまして、アーキタンツとセルリアンタワー能楽堂がタッグを組む『伝統と創造シリーズ』の第9回目で、能をこの現代で解釈するとどういうダンスが生まれるのかという観点から観点を元にした新作のご依頼を頂きました」

 なぜ『老松 -OIMATSU』なのだろうか?
「何を創るべきなのか発見したいと思い、津村(禮次郎)先生から色々なお話を伺う中で、どうしてお能の舞台には必ず松があるんだろうという素朴な疑問から始まり、松が物語の中に描かれているものもあるんですよ、という作品が『老松』だったんです」

 原作は、菅原道真「飛梅伝説」の夢のお告げに導かれた都人の前に、長寿の象徴である松の精、春を告げる美しい梅の精や鶯が現れ、この世を寿ぐという祝言性の高い内容である。それを原作に立ち上げるとしたらという観点から発展し、独自の世界観を描く。

「原作はとてもおめでたい物語です。松の精と梅の精が登場し、唄の中に松が出てきます。松と梅がこの世の平和が続きますようにと、祈りを込めて舞う作品です。それを現代に立ち上げた場合、どうやって何を寿げばいいんだろうと考えたときに、愛されながらずっと脈々と生きてきたお能をまず愛でることが最初の一歩であると感じました。この現代、大きな地震や様々な災害に見舞われていますが、悲しみ沈むだけでなく、寿ぐという行為に焦点を当てたいという思いを抱きました。現代に受け継がれているお能の有り難さを表現したいです」

まだ踊り始めていない!?

 創作について「絵が降りてくる」という表現をしているが、音楽や演出についてはどうだろうか。

「楽曲は創作してもらうことが多いですが、『老松 -OIMATSU』では既存の楽曲を使用します。老松が樹齢何百年という松の精であり、美しい梅の精が登場するというシーンから『死と乙女』のイメージが浮かび、同名のフランツ・シューベルトの曲を選択しました。振付と音楽はどちらが先というのではなく、時と場合によって異なった創り方をします」

 共演者の津村禮次郎と酒井はなについての魅力はどんなところにあると感じますか?
「津村先生は、あれだけの実績や経験をお持ちでも偉ぶるところがまったくなく、いつも公平な視線でご覧になって、実るほど頭を垂れる…というのでしょうか、たとえダンサーやアーティストでなくとも、津村先生のようになれたらと憧れます。謙虚でいらっしゃるからこそ解放されているお気持ちを持っていらっしゃると思います。
 はなさんも素晴らしいですね。成熟したスキルに到達されても探求することをストップされませんし、どこまでも純粋な気持ちで向き合っていらっしゃって透明な情熱さがあると思います。あのお人柄があってこそのあの踊り。人柄が素晴らしいからあの踊りが踊れるのではないでしょうか」

 自身のダンサーとしての長所は?
「真面目です。そこが短所であり長所かもしれないです。真面目ぐらいしか取柄はないかなと思います(笑)」と謙遜するが、周囲のダンサーからの言葉で印象的だったものはあるのだろうか?
「舞踏家の笠井叡さんから『育世はまだ踊り始めていない』と言われた言葉はとても嬉しかったですね。『60歳からだよ』と言われたのが一番心に残っています。有り難い言葉を頂いて感謝しています。まだ踊り始めていないんだ。頑張らなきゃ。60歳から踊り始めてからどんなことが起こるんだろう。楽しみで仕方がなくなりました。そこからまた踊りだすための長い準備を地道にやろうと思います。
ダンスのジャンルがバレエとコンテンポラリーなど様々ある中で、第一線で素晴らしい踊りを踊ってくださる舞踊家の先輩方がいらっしゃるので、長く踊り続けられたら何より幸せですね」

踊りまで便利にしたくない

 身体表現について「便利になりたくない」と語っていたのが記憶に残る。
「身体って不便ですよね。思い通りにできない。昨今のスマートフォンのようになんでもできる万能のツールに比べれば、踊りは対局にあると思います。踊りの不自由さを含めて、その身体で過ごしていることがすごく重要だと思います。
 今後もAIなどの出現で世界はものすごく変化してゆくと思いますが、身体まで浸食されたくないという思いがあります。身体は不便で効率は悪いけど、不自由さの中でかけがえのない何かになる。踊りまで便利になってしまったら、たぶん世界は崩壊すると思います」

 6歳からダンスの世界一筋に生きてきて、ダンサーで良かったと思うことは?
「ダンサーで良かったとずーっと思っています。それ以外考えられない。ダンサーでいられることに感謝していますし、非常に幸せです。最高の職業だと思います」

 その一方、意外な一面も見せてくれた。
「ものすごい怖がりであがり症なんです。“警戒心”というアラームを足で踏みつぶしてから舞台にでるような感覚です。それを踏みつぶさないと舞台なんて出られない感じですよ。プライベートでは、映画が大好きで生まれ変わったら、映画監督になってみたいと思うときもたまにありますね」

 今後の夢は?
「一番大きな夢は、60歳以降ですね。60歳からまたもっともっと踊ること。60歳になるまでも踊って、それ以降も踊りたい。色々な方と出会いながら、頂いた使命をきちんと担って作品を創っていきたい。そして60歳からは自分の時間と自分の力のすべてに注ぐ。自分のためだけにすべてを使って踊ります」

 

C) RYO OHWADA

C) RYO OHWADA

 

==プロフィール==

6歳よりクラシックバレエを始め、97年渡英、コンテンポラリーダンスを学ぶ。02年BATIKを設立。03年トヨタコレオグラフィーアワード 「次代を担う振付家賞」「オーディエンス賞」、04年「朝日舞台芸術賞」、06年「舞踊批評家協会賞」、10年「第4回日本ダンスフォーラム賞」、15年「第9回日本ダンスフォーラム賞」を受賞。

公演情報

伝統と創造シリーズ vol.9『老松 -OIMATSU』
2017年 12/10(日)~12(火)セルリアンタワー能楽堂
http://www.ceruleantower-noh.com/lineup/2017/20171210.html