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INTERVIEW

渡邊峻郁Takafumi Watanabe

新国立劇場バレエ団ファースト・ソリスト

「より良い舞台をお届けしたい」

16歳でモナコのプリンセス・グレース・バレエアカデミーで学び、トゥールーズ・キャピトル・バレエ団に入団、2011年に異例の早さでソリストとなる。2016/2017シーズンから新国立劇場バレエ団にソリストとして入団。2016年7月に、<こどものためのバレエ劇場『白鳥の湖』>のジークフリード役で主演、同年『シンデレラ』にて全幕主役デビューを果たす。

 そして、2018年11月の新制作公演『不思議の国のアリス』でファースト・キャストの主演に抜擢。今まさに成長著しい注目度ナンバーワンのファースト・ソリストの渡邊峻郁が、リハーサル直後のインタビューに応じてくれた。

落ち込むことからスタート

 もしバレエダンサーでなかったら、「子どもが好きなので何か子供に関わる仕事をしていたんじゃないかな。両親が教師をしているので僕も教える仕事をしていたかもしれないですね」と話してくれたが、10歳からバレエをはじめたきっかけは何だったのだろう。

「僕の姿勢が悪かったので、バレエを習った方がいいと母親に勧められて、姉が通っていた教室に行くことになりました。バレエは女の子が習うものと思っていたので、恥ずかしい気持ちがありましたが、直観的に『楽しい!』と感じました。教室に男性の先生がいらっしゃったことも大きかったと思います。
 僕以外の生徒はみんな女の子だったのですが、先生がとても親身になって教えてくださって、レッスンが楽しかったですね」

 その頃の憧れのダンサーはというと?
「日本では熊川哲也さんがKバレエカンパニーを設立されたころで、大活躍されていました。僕の出身地でもある福島でも公演があって何度も観に行きました。
 DVDでも、ロイヤル・バレエ団のイレク・ムハメドフや、パリ・オペラ座のスクールビデオに出演していたマニュエル・ルグリ、エリック・ヴ=アンはビデオが擦り切れるほど繰り返し見ました」

 それから約5年後、北海道のジャパングランプリのコンクールで、モナコのプリンセス・グレース・バレエアカデミーへ1年間留学のスカラシップを得る。
「そのとき15歳だったので、中学校から高校に進学する予定だったのですが、せっかく行けるチャンスをもらえたのだからバレエ団に入りたいという意欲が沸きました。スカラシップを頂いた時点でプロのダンサーになる覚悟が生まれたんだと思います」

 そして、いよいよ迎えた入学当日。
「クラス・レッスンの初日にショックを受けました。容姿もプロポーションもつま先もみんな綺麗で、今まで想像していたのとまったく違っていました。カルチャーショックです。基礎が足りていないということで居残りレッスンを受けることになり、『あー、僕はダメなんだ』と、落ち込むことからはじまりました」

 しかし、それは見込みがあったからこその特別レッスンであり、同バレエアカデミーを2009年に首席で卒業、トゥールーズ・キャピトル・バレエ団に入団し、2011年には異例の2段階昇格のソリストに任命。次々に主演にキャスティングされるトップダンサーとして成長する。

ふたつの『ジゼル』がもたらしたもの

 「僕は『ジゼル』に縁があるみたいで、学生時代に観光でパリを訪れたときに、パリ・オペラ座公演の良い席のチケットが購入できて、主演は、アニエス・ルテステゥとジョゼ・マルティネス。ふたりが素晴らしくて忘れられないです。
 2幕のアルブレヒトが踊り狂わせられるシーンは、体力的にも非常にハードなんですけど、マルティネスの動きすべてが美しくて」
 その数年後に、トゥールーズ・キャピトル・バレエ団でアルブレヒト役に抜擢されることを誰が想像しただろう。主演したふたつの舞台『ジゼル』が自身を大きく成長させてくれたと語る。

 ジゼル役には、同バレエ団プリンシパルのマリア・グティエレス。
「一度組ませてもらいたいと思っていた憧れのダンサーだったので、嬉しかったですね。でも一方で、貴公子アルブレヒトをどう演じればいいのかすごく悩みました。気品を漂わせなくてはいけないですし」

 元パリ・オペラ座バレエのエトワール、モニク・ルディエールがゲスト講師として招かれていたことも、大きな力となった。
「『この役になるからこうすべきではなくて、自分だったらどう感じるのかを大切にすればいいのよ。自分がまずどう思ったか、自分だったらどう感じるか、どう思うか。ひとりの人間として考えてみればいいんじゃない?』とアドバイスしてくださって、その教えが今に繋がっています」

 そしてもうひとつ舞台は、2017年6月の上演された新国立劇場バレエ団の『ジゼル』。
ゲスト講師のロバート・テューズリーから、説得力ある目線の使い方、ふとした目線で感情を見せるなどの指導を受ける。
「はじめて主演させてもらったトゥールーズの舞台では、先輩のプリンシパルに引っ張ってもらった感じでしたが、二度目の『ジゼル』では、若手のパートナー・木村優里さんとふたりで話し合いながら創り上げてゆく、これもはじめての感覚でした。
 まず、はじめの出会いがすごく重要だと思ったんです。この出会いの幸せな場面が描けないと、狂乱のシーンが活きてこない。この2つの場面の落差を出すことで印象がかなり違ってくるものになります」

 トゥールーズと日本でふたつの『ジゼル』を経験し、クライマックスでそれぞれまったく異なる感情が沸いたというのは興味深い。
「トゥールーズのバレエ団では、お墓参りの最後のシーンで生花のユリを持たせてくれて『あなたの思うままにしていい』と言われ、自然の感情に任せたのですが、抱えていたユリが自分の身体から1本ずつ離れるようにバラバラと落ちていきました。打ちひしがれるような絶望感を覚えています。
 でも新国立劇場バレエ団では、絶望感よりも、ジゼルの深い愛によって救われた感覚を得ました。『前に向かって歩いて行こう』という、不思議と前向きな気持ちになれたんです。このふたつの舞台で得た対照的な感情が印象深く残っています。
 違うパートナーでも同じパートナーと組んでも、自分自身の経験によってまた変わっていくと思います。また『ジゼル』を再演するチャンスがあったら、次はこんな風に見せたいという想いが沸くでしょうし、こういう経験ができることに感謝しています。ダンサーとして幸せです」
 『ジゼル』への熱い思いと真摯な姿勢が、より豊かな表現力を深めさせたのだろう。本公演のクライマックスでの、「ジゼルのお墓にキスするシーンは自然に出た行為だった」というのもうなづける。

一歩が踏み出せない!

 順風満帆に快進撃を遂げているように見えるが、非常に苦労した舞台もあったという。
2013年に同バレエ団のカデル・ベラルビ監督の新作『海賊』で、主人公に対峙する悪役スルタンに抜擢されるが、「自分の実年齢より一回り以上うえで、身分の高い出身の設定であるので貫録も見せないといけない。色々悩みながら挑みました」

 続いて、名作『美女と野獣』をコンテンポラリーダンスで踊る作品で、野獣役に第1キャストとして抜擢される。ミュージカルで見られるようなマスクをつけての演出ではなく、スーツのような恰好の衣裳を着用して出演。ベラルビ監督の指導は想像以上に厳しかった。
「一歩足を出しただけで『違う』。そしてまた一歩踏むと『はい、違う』『はい、それもダメ』の繰り返し。今思い出しても辛い……(苦笑)。全然リハーサルが進まなくて、ワンステップだけで10分。もう、ムリー!と思って出たときの動きに、『あ、それいい!』ってOKが出て、一体どーすればいいの!?って(笑)」

 動きひとつで野生的な表現を出さなくてはいけないことは相当なチャレンジングな経験だったに違いない。
「監督の要求を吸収してどうやって表現すべきか、本番の1週間前までそんな状態で追い詰められたおかげで、精神的に強くなりましたね。根性も付きました」

 
 そして、次なる舞台は新国立劇場バレエ団の新制作『不思議の国のアリス』でハートのジャックを主演する。ダブルキャストは同バレエ団プリンシパルの福岡雄大。ファースト・ソリストの渡邊がこの役に抜擢されたことに期待の大きさが伺える。それも8公演のうち4公演ずつ踊るというハードな日程である。
 キャストが発表されたときの思いはどうだったのだろう。
「それが意外と冷静だったんです。もちろんものすごく嬉しかったのですが、あ、もう一度DVD見なきゃ。頑張ろうって、すぐスイッチが入った感じでした」

 『不思議の国のアリス』は英国ロイヤル・バレエで2011年に世界初演され、即完売するという一大旋風を巻き起こした人気作品。セルゲイ・ポルーニンが主演したDVDもすでに観ていたという。
「爆発的な踊りとたまにみせるチャーミングさ。ちょっとみせる表情が魅力的だと思いました」

 自身では、どのようなジャックのハートを演じたいと思っているのだろう。
「振付家クリストファー・ウィルドンさんがインタビューで『日本のアリスをやりたい』とおっしゃっていたの聞いて、自分の個性を前面に出したジャックを演じたいと思いました。跳躍力やダイミックな踊りが自分の強みでもあると思っているので、自分の良い部分を見せたいです」

 相手役のアリスにはプリンシパル・米沢唯。看板スターのひとりである彼女の第一印象はどうだったのだろう。
「黙々とレッスンをされる方で、集中したら一本!という印象でした。普段のレッスンの感じから、ストイックで強い人なのかなと想像していたのですが、実際は柔らかくてふわっとしていて、同じ目線で話してくれるフレンドリーな方です」

 リハーサルの手ごたえは?
「アクロバティックなステップが多いので、細心の注意を払って挑んでいます。クラシックバレエとは違うリフトがあり、複雑なパ・ド・ドゥも多く、女性たちもポアントでスライドして入ってくるとか、スリリングなシーンも多いので楽しんでいただけると思います」

 一方で、非常に謙虚な姿勢を崩さない。
「毎回舞台での反省点がすごく出てきます。自分の足りない部分が多いので、苦手なところを克服したい。いま目の前にあることをひとつ一つ取り組んでそれを糧に成長していきたい。高みを常に目指して、より良い舞台を皆さんにお届けしたいと思っています」

 

C)RYO OWADA

C)RYO OWADA

==プロフィール==

鈴木寿雄のもとバレエを始める。2006年モナコ公国プリンセス・グレース・クラシック・ダンスアカデミーに留学し、マリカ・ベゾブラゾヴァらに師事。09年アカデミーを首席で卒業、トゥールーズのキャピトルバレエ団に入団。11年よりソリストに昇格。2016/2017シーズンより新国立劇場バレエ団にソリストとして入団。2016年7月<こどものためのバレエ劇場『白鳥の湖』>で主役ジークフリードに抜擢、同年「シンデレラ」にて全幕主役デビューを果たす。2017年よりファースト・ソリストに昇格。

公演情報

JAPON dance project 2018 × 新国立劇場バレエ団
「Summer/Night/Dream」
2018年8月25日(土)、26日(日)新国立劇場中劇場
http://www.nntt.jac.go.jp/dance/performance/33_011661.html

新国立劇場バレエ「不思議の国のアリス」
2018年11月2日(金)~11日(日)新国立劇場オペラパレス
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/variety/