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INTERVIEW

小野寺修二Onodera Shuji

カンパニーデラシネラ主宰・演出家・振付家

「ワクワクする気持ちがちゃんと持てているか」

1995年からマイムを主体とした「水と油」の約10年間の活動を経て、カンパニーデラシネラを設立。2019年で10年目を迎えた同カンパニー主宰・演出・振付家の小野寺修二と、「水と油」からのパートナーである藤田桃子とともに、ダンスでもなく演劇でもないノンジャンルのパフォーマンス・カンパニーとして、様々な分野の出演者との共演を重ねてきた。製作の裏側やこれまでのヒストリーについて、一つひとつ丁寧にじっくり語ってくれた。

「水と油」は、2000年にエディンバラ・フェスティバルに初参加でノミネートされ、翌年にはヘラルドエンジェル新聞社にアワードされるという快挙を得る。大道芸からオペラまであらゆる芸術パフォーマンス団体が集う中でも、「水と油」のマイムは『日本的で新鮮』と注目を浴びた。

限界を楽しむ

 「マイムの形というよりは、おそらく間の取り方や何もない中で空間や物や人を見立てる表現について評価されたんだと思います。これまで観たことがない新しさがあったようです」
 驚くべきは、小野寺と藤田とも本格的にダンス教室に通ったことはなく、公演のリハーサを重ねる中で学んだ程度だという。
「『水と油』の頃、メンバー全員日本マイム研究所の出身だったのですが、最初マイムから出発し、その後メンバーの高橋淳さんが動きについて主導で進めてくれて、ムーブメントを開発していきました。上半身と下半身をどうコンビネーションさせるかを重視していたように思います。インプロビゼーションの正解も自分たちの中で試行錯誤しながら見つけていった感じですね」
 そして水と油の活動を経て、多くのバレエファンにも注目されることとなった舞台が、2008年に初演された首藤康之・主演の『空白に落ちた男』だ。スピーディなパントマイムとキレのあるダンス、スリリングな舞台展開で大成功を納めた。
「この舞台がターニングポイントになったことは間違いないですね。首藤康之さんというトップバレエダンサーに出会えたこと、美術セットを使ったはじめての舞台に、たくさんの可能性を感じました」
 
 舞台の台本はどのように進行するのだろうか?
「まず、短い場面のオムニバス創り、それを当て込みながら柱を創っていきます。逆に言うと、ストーリーを中心に先に設定すると説明的になってしまって、先に進まないんです。
 たとえば、創作過程として、男がひとり部屋にいると設定します。そして、勝手に家具が動くとします。その次に、いったいこの男は誰なんだろう?とキャストたちと考える。最初の絵は、タバコを吸っている男にしよう。タバコを吸っている男を刑事にしてみようか、など当て込んでいきます」
 オムニバスをアトランダムに創作し、一つのストーリーとして仕上げてゆく方法はどのように身につけたのだろう。
「マイムを学んでいたときの手法の一つなのですが、AとBの場面が全然違う背景であればあるほど大きな世界ができるんです。そのAとBのシーンの隙間を観客は想像するから面白くなる。自分のやりたいシーンを先に創って、それをつないでゆくやり方は、限界もたくさんあるんですが楽しいんですよね」
 創作過程で、カウントを音に頼らない手法で進めるという。
「カウントは視覚で取っていっています。音よりは質感で合わせるというのでしょうか。大きなルールとなる、スタートと最後だけ決めています。カウントで取ると逆に大変なんです。どうやって動きを揃えているかというと、たとえば物を同じ速度で動かすとか何度か繰り返し質感を合わせると揃ってくるんです。そうすると次第に、『あ、これね!』とグルーブ感が出てくる。
 ダンスは、音楽とカウントがあって当たり前の世界ですよね。でも僕は、そのカウントが当たり前の認識に、まず疑いを持ちたい」

道のりが醍醐味

 様々なバックグラウンドを持つキャストたちの集まりで、どのようにリハーサルは進行するのだろう。
「まず、ダンスを前面に出すと、俳優さんたちはちょっと後ずさりします(笑)。でも、無音だとみんな同時にスタート地点に立てる。不思議とジャンルの違うキャストたちの方が揃ってくるんです。
 それに、テクニックはときとして邪魔になることがあるんです。あるジャンルにおいては、同じレベルの水準に揃えるためにテクニックがあるべきなのですが、一方で、それ以上に個性が求められる。そのバランスが大切ですね」
 2013年には、浜辺を舞台に瀬戸内国際芸術祭2013 『人魚姫』を上演した。
「そうしたら、波の音で音楽もセリフも聞こえない(笑)。それに加えて、雨が降ってびしょびしょになりながらパフォーマンスした日もありました。結局大きなスピーカーを持ち込み、セリフを最小限にカットしたんですが、野外でしかやれないことにこだわって作っていって、お客さんの反応はとても良かったんです。自然に囲まれた舞台もまたやりたいですね」
 
 記憶に残るもっとも苦労した舞台製作というと?
「どれも創作過程は苦労しますが、その道のりが醍醐味と思っています。その中でも特に苦戦した作品といえは、2019年2月上演の『見立てる』です。セリフが一切ない『空白に落ちた男』の世界に久しぶりに戻ることにしたんですが、その当時できていた感覚を忘れていたことは、逆に新しい発見でした。
 約10年前にやってきた地点に単純に戻れると考えていたんですが、考え方や間の取り方、自分の考え方も変化していたことに気づき、苦戦しましたが楽しかった。改めて、振付や創作についてじっくり考え直したいと思いました」
 
 創作への原動力は?
「以前、演劇に勝ちたい気持ちがあると語ったことがありますが、ダンスに勝ちたい気持ちもあります。その気持ちがモチベーションにつながっているのではないかと。ダンスが生活から遠い、特殊なものに思われるのは残念ですよね。僕は、身体はこんなに自由なんだよとか、ダンスから豊かさを教わったことが多い。ただ、テクニックに走るとできるできないという二つに一つの選択になってしまう。
 たとえば、手を伸ばすという行為だけでも、表現の一つとして、身体を動かすことの面白さを追求したい。このワクワクが大切だと思います。ダンスとか演劇とかカテゴライズせずに、もっとオープンにできる方法があるんではないかと思っています。演劇以外でこんなことができるんだ!と興味を持ってもらえたら嬉しい」

余白を残す

 創作への美学・こだわりも教えていただきたい。
「“イキイキ”することです(笑)。ワクワクする気持ちがちゃんと持てているかどうか。少なくともそこが動かないと、観客の気持ちを動かすことはできないと思います。
そして、常に“隙間”を意識しています。これを“間”というのかもしれませんが、これ以上やらないという、想像力の余地を残すようにしています。説明をしすぎないことです。『これなんだろう?』を大切にしたい。
 残り30%は誰かが足してくれないと完成しないものが僕の作品のスタイルといえるかもしれません。ときには10%しか出さないときもある。その残りを埋めてくれるのがお客さんだったり俳優だったりしますが、たとえば100%出したら考える余地がないことになる。
 それをサービスと考える媒体もありますが。僕にとってのサービスは、考える部分を残すこと。“分からないことが面白い”を楽しんでもらえたら嬉しいですし、自分でもその感覚を忘れないようにしたいと思ってます。
 逆に、僕のこだわる演出は、観客に先入観を与えないことです。舞台で悲しい音楽が流れてきて、そこに登場人物が出てきたら悲しい人に見えるじゃないですか?そういう固定観念的なものの逆をいきたいなと思っています」

 また、ここ最近新しい発見があったという。
「無音にすることによって新しい世界が広がるかもという期待感があります。音に縛られない作品も創作してみたいですね。見立てといった考え方にもあるように、限られた情報を膨らませてとらえる。また、日本人は“暗闇”の美学を潜在的に持っていると信感じています。谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』の中で、“日本人が闇を愛する理由”を語っていて非常に共感しました」
 
 2020年2月には、新作『どこまでも世界』が神奈川芸術劇場大スタジオにて上演される。このキャッチーなタイトルは、本作でも出演する藤田桃子の着想だ。
「境界線そのものが薄れてきている気がします。ネットが繋がり世界中で拡散され、遠くのものを近くに感じ、真実と虚構の境界線があやふやな世界になっている。それは良い面も悪い面もある多大な進歩と思いますが、どこかに危うさを感じます。便利さのその裏に恐ろしさが潜んでいるというのでしょうか」
 キャストは『見立てる』と同じメンバーが出演。演出家として、どんな作品を思い描いているのだろうか?
「言葉のない世界、余白のある世界。そして隙間の美学をお見せしたい。人体表現でどこまで想像の余地を渡せるか、境界線がないところに向かいたいですね」
 ミステリアスで厚みある構造に定評があるデラシネラは、今回も大いに期待できる。
 
 小野寺修二個人として、今後挑戦したいことをシェアしていただこう。
「ある“瞬間”を切り取ることに興味があります。これまで1本の作品を創っていますが、断片のピースをもっと突き詰めたい。キラッとするようなピースを創れるようになりたいと思っています。最終的にそれが一つの作品になるのですが、短いひとつシーンや場面をどれぐらい豊かにできるか、あえて言うなら、”ピース職人”というんでしょうか(笑)。そんな境地を目指したいですね。
 でも、そのピースが必ずしも劇場でなくてもいいんです。街のストリートでの上演だったり、海辺だったりしても面白い。一つひとつが力のあるピースを創っていきたいと思っています」
 
 カンパニー、デラシネラとしての今後は?
「2019年4月から4人のカンパニーメンバーで新スタートしました。このカンパニーが観たいと思ってもらえるなりたい。ピナ・バウシュがそうだったように、海外の出演者や異ジャンルのキャストがいて当たり前のカンパニーになりたい。様々な国の色々なジャンルの人たちとクリエイションしていきたいと思っています」
 
 

C)RYO OHWADA

公演情報

カンパニーデラシネラ『どこまでも世界』
2020年2月27日(木)〜3月1日(日) 神奈川芸術劇場 大スタジオ
https://derashinera.jp/activity/dokomademo_sekai/