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INTERVIEW

福田圭吾Fukuda Keigo

新国立劇場バレエ団ファースト・ソリスト

「何かを手放すことで新しい発見がある」

 小雨に包まれる撮影の中、傘を小道具のように軽快なステップを踏んでくれた新国立劇場バレエ団ファースト・ソリストの福田圭吾。入団13年後の2019年6月には新国立劇場バレエ団公演『アラジン』で全幕作品では初の主役に抜擢された。福田はこの作品で2008年の初演時はアラジンの友人役、2011年と2016年の再演時にはランプの精ジーンなど重要な役を踊っている。当作品は当時英国バーミンガム・ロイヤル・バレエの芸術監督でもあった振付家デヴィッド・ビントレー(後に新国立劇場舞踊芸術監督も兼任した)が新国立劇場のために振り付けた作品。

 
 福田はこの『アラジン』が生まれる現場を目の当たりにしていただけに、役への理解力も深く作品全体も十分に把握しており、福田のアラジンはまさにこのストーリーの主人公そのもの。初役ながら高い評価を得た。

恵まれた仲間たち

 「バレエを踊っていて良かったなと心から感じた瞬間でした。親戚や先輩、日本全国から友達みんなが観に来てくれました。本当にこれまで多くの人たちに支えられていたことをしみじみ実感した瞬間でした。自分を支えてくれていた大切な人たちと、舞台を通して幸せな時間を共有できたということがとても嬉しかった」
 
 バレエをはじめたのは物心つく前からという。
「母親の矢上久留美がバレエスタジオを経営していたので、2歳半から教室に連れて行かれていたようです。覚えてはいないのですが、『バレエやりたい?』と聞かれて『やりたい』と答えたらしいです(笑)。弟の紘也も今、同じ新国立劇場バレエ団で踊っています」
 そのスタジオとは、大阪を本拠地に1983年に設立されたケイ・バレエスタジオで、多くの優れたダンサーたちを輩出していることでも知られる。このスタジオ出身者には新国立劇場バレエ団ファースト・ソリストの福田自身や福岡雄大(新国立劇場バレエ団プリンシパル)、福田紘也(新国立劇場バレエ団ファースト・アーティスト)などがおり、ダンサーとしてはもちろん、振付や演出の分野でも高い評価を得ている。また1997年に同バレエ団に入団し、レパートリーのほとんど全ての主役を踊った山本隆之(元新国立劇場バレエ団プリンシパル)もケイ・バレエスタジオの出身である。
 
「ケイ・バレエスタジオは、まずバーレッスンをしっかりやる方針で、小学4年生からコンテンポラリークラスを受けはじめました。学生時代はバレエで忙しかったので、部活には入っていなかったですね。バレエを踊ること自体は楽しかったのですが、思春期だったせいか、クラスメートにバレエを習っていることを言うのは気恥ずかしさがありましたね。
 特に運動神経が良いという意識はなかったと思います。かけっこは早い方だと思っていたんですが、実際走ってみたらビリだった(笑)。水泳もそんなに得意ではなかったと思います。
 プロのダンサーになろうとはっきり意識したことはなかったかもしれないです。『いつの間にかなっていた』というのが近いかもしれない。学生時代授業中はバレエのレッスンで疲れてほとんど寝ていたし(笑)、大学進学もあまり考えていなかった。
 中学生のころから国内のコンクールに出場するようになって、気づいたら1位をいただけるようになっていました。2002年には、ジャクソン国際バレエコンクールでスカラシップ賞をいただき、ドイツ・ミュンヘンのハインツボッスル・バレエアカデミー留学することになりました。ケイ・バレエスタジオの先生方も『行ってこい!』とあたたかく送り出してくれました」

ローザンヌ初出場でスカラシップ賞!

  その海外バレエ留学がひとつの転機になったことは間違いない。

「生活費や授業料も免除してもらい、バレエ中心の生活がはじまりました。あるとき、校長先生から『ローザンヌ国際バレエコンクール出てみないか』と言われたときはビックリしました」
 それには理由がある。
「スタジオの師匠からは、僕も(福岡)雄大も、ローザンヌはムリとずっと言われてきました。そのためか僕もどうしても出場したいという強い気持ちもなかったんですね。ただそのミュンヘンの学校からローザンヌまで3時間ぐらいで行ける距離だったんです。勧めてくれるのなら受けてみようかなと色々考えているうちに、もし出場できるんだったら、フリーバリエーションの課題を師匠の振付で踊りたい、という意欲が出てきました」
 2003年の初出場を決意。そして見事、プロフェッショナル・スカラシップを受賞。同年英国バーミンガム・ロイヤル・バレエの研修生として1年間学ぶことになる。
 ちょうど同時期に、福岡雄大は文化庁在外研修員としてチューリッヒ・ジュニアバレエ団に入団し、ケイ・バレエスタジオでともに切磋琢磨した仲間は、欧州の地でさらに飛躍を遂げる。
 
「2006年に新国立劇場バレエ団に入団したのですが、やはり先輩の山本隆之さんの存在が大きかったですね。ケイ・バレエスタジオの発表会で共演させていただいたりして、ずっと憧れの先輩であり目標でした。隆之さんは、まず存在感がすごい。ノーブルな品性の中に、男らしさがあって、ダンサーとしても人としても、隆之さんを尊敬するダンサーは多いですね」
 
 自身で納得がいかなかったときなどの対処法は?
 「普段はたとえば気分が落ち込んだりしても、お酒を飲んで翌日にはカラッとしています。できなかったことを悔やんでも仕方ないですし、あまり落ち込まないタイプです。特に、バレエ団に入ってからは、公演のためリハーサルが日々ありますので、目の前の課題に打ち込まないといけないので、落ち込んでいる暇がない(笑)。
 バレエ団のメンバーがとても充実していて、僕にない長所や資質を持っているダンサーがたくさんいるので、そういうダンサーには後輩であっても『ここってどういうふうに踊っているの?』と尋ねたり、周りの意見にも耳を傾けるようにしています」
 
 ダンサーとして変化や成長を感じた出来事はなんだろうか。
「30歳までは勢いだけで乗り越えてきたんですが(笑)、気合いでできたことができなくなってきている。でもキャリアを重ねることでそれがかえって、新しい成長につながることに気づきました。歳を重ねると当然体力面で落ちてくる。それで身体の使い方を変える工夫をする。そうすると、無駄な力を使わなくてすむ方法が見えてくる。必要以上に力んで踊っていたんだな、と逆に自分を客観視できるようになった。
 自分の踊りを見直せば見直すほど、基礎が大事なことに気づかされます。年齢を重ねることで、自分自身を見直す時間が与えられ、毎日自分の課題が見つかっていくような感覚。何かを手放すことや執着を捨てることで、新しい発見があって楽しい」

振付家としての手腕

  近年は振付家としても高い注目を浴び、新国立劇場バレエ団〈DANCE to the Future〉等での作品上演、自身のダンスユニット「DAIFUKU」も2016年から始動し、昭和の家族を描いた2019年の振付作品『HOME』は、好評により東京と大阪の二都市で開催。〈Summer Concert2019〉で発表した新作『accordance』も高評を得て、来る3月の〈DANCE to the Future2020〉で再演が決定、目覚ましい躍進を遂げている。
 
 「振付家というとちょっとおこがましいんですが、自信になりました。30歳から振付活動もスタートして、ダンサーと振付を両立させないといけない。もしどちらも中途半端な仕上がりになったり、上手くいかなかったりした場合、両方やっているから仕方がないじゃないかというような言い訳は絶対したくなかった。 
 特に『HOME』は公演が重なっていた忙しい時期だったので、2ヶ月前からスタートし、バレエ団のレッスンが終わってからクリエーションの時間に充てました。出演者が全員まとまってゆっくり振付ができる時間がなかったので、パズルのピースをひとつ一つ創作していきました。一つの作品としてどういう形にまとまるか不安でしたが、納得がいく作品ができたと思います」
 
 猫の姿に扮したユーモア溢れるシーンからスーツ姿でスタイリッシュに踊る場面など、それぞれのダンサーの個性を上手く引き出した振付と演出とで、強く心に残る楽しい舞台となった。バレエを観たことがない人からも、「面白かった」「こういうバレエをもっと観たい」「新国立劇場でも上演してほしい」という声が上がったという。
 
 出演ダンサーたちも、とても楽しかったのではないだろうか?
「彼らからは『いつも振付がギリギリすぎる!』と言われていました(笑)。でも、リハーサルの雰囲気はすごく良くて楽しみながら創作できました。最近、「DAIFUKU」公演が多くの人に認知されてきたので、だんだん責任を感じるようにもなってきました(笑)」
 
 その次の公演、「DAIFUKU Vol.6」『Strong B』が、3月6日(金)から8(日)まで横浜で上演される。今回も、演出・振付・出演を大和雅美とで担う。
「スタイリッシュでクールなバレエエンターテイメントにしたいと思っています。キーワードは、カッコよく!強く!美しく!『Strong B』の「B」は、「Ballet」「Beat」「Body」「Beauty」「Balance」などなど。
 オムニバス形式で小さいピースがつながっていくようなイメージを持っています。音楽はオリジナル曲と既存の楽曲で、今回はビートボクサー・HIRONAさんの生ライブもあります。前回よりコンテンポラリーテイストが少し濃くなるかもしれません。
 会場のTHE HALL YOKOHAMAは、客席とダンサーとの距離がとても近いので、ダンサーの息づかいや温度を間近で体感してほしい。普段見られないようなダンサーの新しい魅力も引き出したいと思っています」
 
 「DAIFUKU」は、今後どうなってゆくのだろう?
「いつも行き当たりばったりで、正直こんなに続くと思ってなかったんですが(笑)、継続していくことが大切だと思っています。再演を期待する周囲の声も多くなってきているのでプレッシャーを感じつつも、楽しんでやっていきたい」
 
 この〈DAIFUKU Vol.6『Strong B』〉と、3月27日(金)からの〈DANCE to the Future2020〉の出演の後も、新作の上演が続く。
 7月21日(水)には、沖縄の英雄をテーマにした藤間流日本舞踊家の藤間蘭黄が主演の舞台、〈舞踊の可能性Vol.3『GOSAMARUー勇者たちの物語』〉で相手役に長田佳世が出演。その娘役へ振付をすることが決定している。
 そして11月7日(日)に、日本バレエ協会の「クレアシオン」で、振付家3名(森優貴、松崎えり)とともに新作を発表。出演は米沢唯、福岡雄大、木下嘉人など新国立劇場バレエ団のダンサーたちが出演する。
 
 ダンサーと振付の両立で、これかららますまず忙しくなりそうだ。
「現在34歳になり、今後のことも考えるようになりました。振付以外も何がしたいかを40歳ぐらいまでに見つけたいという気持ちもあります。もちろん、ずっとダンスに携わっていくつもりですが、もう少し視野を広げてみようかなと思っています」
 

C)RYO OHWADA

==プロフィール==

大阪府出身。3歳からケイ・バレエスタジオにてバレエを始める。同スタジオで矢上香織、矢上久留美、矢上恵子に師事。2001年こうべ全国洋舞コンクール・バレエ男性ジュニアの部第1位、02年アメリカジャクソン国際バレエコンクールでスカラシップを受賞、同年ドイツハインツボッスル・バレエアカデミーへ留学。03年ローザンヌ国際コンクールでプロフェッショナル・スカラシップを受賞、同年英国バーミンガムロイヤルバレエへ留学。06年全国洋舞コンクール・パ・ド・ドゥ部門第2位。06/07シーズンより新国立劇場バレエ団契約コール・ド・バレエ。09年トワイラ・サープの『プッシュ・カムズ・トゥ・ショヴ』で中心的な役柄に大抜擢され、好評を博した。10年にソリストに昇格。

公演情報

DAIFUKU vol.06『Strong.B』
2020年3月6日(金)~8日(日)THE HALL YOKOHAMA
https://www.angel-r.jp/event_ar/daifuku/daifuku-vol06/27087/
 

新国立劇場バレエ団『DANCE to the Future 2020』
2020年3月27日(金)~29日(日)新国立劇場 小劇場
https://www.nntt.jac.go.jp/dance/dtf/