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INTERVIEW

菊地研Kikuchi Ken

牧阿佐美バレヱ団プリンシパル

「刺激を与えられる人でありたい」

「最初で最後だと思った」という初役カジモドから4年、『ノートルダム・ド・パリ』が再び幕を開ける。ローラン・プティから主役に抜擢された牧阿佐美バレエ団プリンシパルの菊地研。プティがその舞台を観ることは叶わなかった2011年の舞台を「プティさんに捧げるために踊った感覚でした」と振り返る。プティの作品で主演を踊ることはなかっただけに、この作品に賭ける思いは強い。

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   しかし一方で、「バレエを辞めたくなった時期」でもあったと打ち明けてくれた、その当時の苦悩と再演に向けての熱意を語る。

ガジモド役との闘い

 プティの後継者であるルイジ・ボニーノとのリハーサルは想像以上に厳しかったという。
「何をやってもルイジさんから反応が来なかった。ある程度自分でも準備してリハーサルに臨んだのですが
何一つ評価してもらえない。毎日考えて踊ってみてもダメで、一番辛かったのは表現の部分ですね。すべて出し尽くしたと思っても、『まだカジモドになっていない』と言われました。
 たとえば、顔の表情からNGが出て、『なんでそんな表情しているのか、なぜ醜くやろうとするんだ』、と。でもやればやるほどできなくて、何も答えが出てきませんでした」

 16歳で鮮烈なデビューを飾り、20代後半を迎えた2011年は新たな試練が待っていた。
「バレエを辞めたくなりました。どのダンサーもみんな経験する感覚だと思うのですが、どうすればいいのか見えてこなくなった時期でした」

 そもそもこの世界に入ったのは、姉がバレエを習っていたからだが、高校1年生でダンサーになろうと決意したのは「仲間からの刺激」があった。
「ローザンヌ国際バレエコンクールに出場しておきながらですが(笑)、将来についてはまだ漠然としていました。でも同じコンクールに出場していた伊坂文月(現 Kバレエカンパニー・ソリスト)の会話の質が違っていました。プロになるという確固たる姿に刺激されました。幼馴染の八幡顕光(現 新国立劇場バレエ団・プリンシパル)の存在も大きいです」
 その後、意図的に成績を落とすなど確信犯的な行動力(!?)で、1年がかりで親を説得し高校を中退。

ターニングポイントとなった『ノートルダム・ド・パリ』

 そして20代後半で経験した苦悩は、菊地を原点に向かわせるきっかけをもたらした。
「舞台に出る憧れを持っていた10代の頃の感覚に戻りました。大人になればなるほど、苦難を簡単に乗り越える方法を見つけてしまうのですが、純粋にがむしゃらになれました。人とも自分の心ともちゃんと向き合い、毎日が濃密でした」
 
 同時に、この悩み抜いた期間は菊地を大きく飛躍させた。迷いながら挑んだ初役の舞台は、憎悪と愛情の感情がほとばしり、会場全体がガジモドの熱気に揺れた。醜いメークやカツラ、せむしなどの小道具に頼らない「素」の演出は、踊り手に一切をゆだねる覚悟と厳しさが必要とされたが、逆にダンサーの表現力が際立つ効果を生んだ。舞踊評論家からも「むしろ美しかった」と高評を得る。

 「最終的には、表現できたんじゃないかなという手ごたえを感じました。ルイジさんが終演後に『ありがとう』と声をかけてくれました。一昨年にはプティさんのお墓参りもやっと叶い、報告ができました。『ノートルダム・ド・パリ』の思いがそこで完結できました」

選び直した「ダンサー」としての道

 しかし今、再演の道が開かれた。本公演に向けてどんな思いがあるのだろうか。
「はじめて挑む気持ちで、まっさらでいきます。自分の持っている経験なんてあまり大したものでないと思うし、”こういうものですよ”という作品になってしまうと迫るものがない。またしんどいと思うのですが(笑)、身体から、内面から滲み出る表現力を出したい。
 今まではこれしかないから、踊り続けなくてはいけないという気持ちもあったのですが、変な意味での責任やプライドがなくなってきたのかもしれない。もっと自由な感覚でいられるようになりました。こんな感じで踊りたい、こう見せたい、とさらに貪欲になりました」

 その再生に向けてのエネルギーが、2013年の舞台『白鳥の湖』で端的に表れる。
 「『意志のある王子だった』。僕らしい白鳥と言われたのが嬉しかったです。王子の役作りを考えたときに、自分の意志が明確にある王子を意図的に演じたいと思いました。意外に大胆で遊び心もある。現状にけっして満足している王子ではないと思ったので、一幕のシーンから何かに不満を感じている感情を意識しました」

 特に日本では上演回数がダントツトップの『白鳥の湖』には、工夫が必要だ。
「みんながチャレンジして表現していかないと、『白鳥の湖』全体が盛り上がらない。どれも同じになってしまいますから」
 
 さらに厚みが増し、磨きがかかった菊地は、バレエ界を牽引するプリンシパルとしてさらに高みを目指す。
「今は、ダンサーという職業を改めて自分でチョイスして踊っている意識があります。踊るための苦悩を味わえている自分は、なんて幸せなことに挑んでいるんだろうと感じます。悩んで悩んで舞台に立ってお客さんに拍手をもらっている。幸せです」

 

C)Takao Sakai

C)Takao Sakai

==プロフィール==
 石井清子バレエ研究所、竹内ひとみバレエスクールを経て、2001年牧阿佐美バレヱ団入団。ロシアのボリショイ・バレエ学校に短期留学。2004年フランス、ロシアで上演されたローラン・プティのガラ公演にゲスト出演。『白鳥の湖』『くるみ割り人形』『ドン・キホーテ』『リーズの結婚』『三銃士』『ラ・シルフィード』『ノートルダム・ド・パリ』などに主演。2002年こうべ全国洋舞コンクールジュニアの部1位。2006年第37回舞踊批評家協会賞新人賞。

公演情報

牧阿佐美バレヱ団『ノートルダム・ド・パリ』
2016年6/11(土)、12(日)文京シビックホール
http://www.ambt.jp/perform.html