ページの先頭です。

INTERVIEW

島添亮子Shimazoe Akiko

小林紀子バレエ・シアター プリンシパル

「明日はもっと変わるかもしれない。まず今日に向き合おう」

小林紀子バレエ・シアターのミューズとして不動の地位を築き続ける島添亮子。たおやかで静謐でありながら同時に芯の強さを感じさせるプリンシパル。バレエスタジオに現れただけで周囲の空気がパッと華やぐような柔らかいオーラを纏い、ポアントのリボンを結んでいる動作さえも美しく、周りの目を釘付けにする稀有な逸材。

home_mainimage01_sp島添さん

 質問にひとつ一つ丁寧に応える姿に、舞台と同じように真摯に向き合う誠実な人柄がくっきりと浮かび上がる。オフの日は好きな映画を観て過ごすというが、クリント・イーストウッドのファンでもあるという知られざる一面も見せてくれた。

人生を変えた出合い

 まず4歳からバレエをはじめたきっかけは何だったのだろう。
「両親が水泳かバレエのどちらか習わせようと、スイミングスクールを見学したのですが、結構スパルタ方式だったので(笑)、次に近所にある2つのバレエ教室を見に行きました。モダンバレエの方は童謡が流れていたのですが、クラシック音楽がかかっている教室の方が良いと選んだようです。
 とにかくバレエ教室に行くのが楽しくて。おそらく色々発散していたんだと思います(笑)。いつの間にか気づいたらバレエはとても身近なものになっていました」

 その後、小学1年のときにピアノを習い始めるが、学業などで忙しくなりピアノから離れてしまう。しかし、バレエは続けたいと自分から両親にお願いしたという。バレエダンサーとしてプロになることを
意識したのはいつ頃からだったのだろうか。

「はじめてプロのダンサーに触れたのは中学2年生ぐらいだったと思いますが、『くるみ割り人形』の
パ・ド・ドゥで組ませてもらったときです。大人のダンサーとのリハーサルは今までのレッスンと全然違って新鮮で刺激的で厳しかった。その体験以降、さらに真剣にバレエに取り組むようになりました。もっと追求したくなったのだと思います」
 
 特に強く影響を受けたダンサーは誰だったのだろうか。
「当時習っていた渡辺郁子先生から見せていただいたDVDだったと思うのですが、アレッサンドラ・フェリの『ロミオとジュリエット』、ヴィヴィアナ・デュランテの『眠れる森の美女』が忘れられません。ミハイル・バリシニコフの『ドン・キホーテ』も大好きになってしまいました。お正月にバレエ番組の放映があったのを覚えているのですが、外に遊びに行かずにこの番組のために急いで帰りました(笑)」

プリマ島添亮子を変えた作品

 小林紀子バレエ・シアターとして入団して約17年となるが、ターニングポイントとなった作品は何だろうか。
「一番大きく変わったのは、2005年に主演したマクミランさん振付の『The Invitation』ですね。先生に呼ばれて『少女が暴行されてしまうお話なんだけど、できる?』と聞かれました。

 本作はマクミランの1960年の創作であるが、性暴力を真正面から捉えた舞台はバレエ業界に大きな衝撃を与えた。
「マクミランさんの作品をはじめて踊ったのは『ソリテイル』だったのですが、この作品のメッセージが
深く伝わってきました。この頃は両親への説得も含め、プロにになるかのどうかの葛藤があったので、いままで悩んでいた自分がこの作品に出会ったことによって役に立った思いがありました。私自身も震えるほどの作品に出合って、この振付家の作品であればレイプという題材であっても間違いはないという確信がありました。こんな素敵な作品を創る振付家を信じたいと」
 
 本作を日本で上演するバレエ団はほとんど少なく、観客にとっても非常に貴重である。
「あのとき“イエス”と言えなかったら今の私はありません。怖気づいて断らなくて本当に良かったと思います。この作品に出合えて幸せです」

 「作品との出合いが自分を成長させる」と常々語っている島添だが、一番成長させられた作品も聞いてみたい。
「全部だと思います。ぱっと思いつくだけでも8作品ぐらいはあるのですが(笑)、でもそのなかでも特に『マノン』はすさまじい経験でした。ちょうどその年は2011年の東日本大震災がありましたので、私も一アーティストとして舞台に立つことに対して切実な立場にありました。でもだからこそ、『しっかりしなきゃ。生きていかなくてはいけない』と、背中を押される感じで『マノン』の舞台に立ちました。
 ロバート・テューズリーさんがパートナーでしたが、英国人にとっての『マノン』の誇りを強く感じました。どの作品もそうですが、それ以上にハードルを下げられない作品で、言い訳もできない。ノーエクキューズです。ちょっとでも甘えが出たら許されないという、これまでのリハーサルとは少し違う雰囲気がありました。本番の舞台で本気でロバートさんに向かっていきました」

 全身全霊で挑んだ舞台を終えたときはどんな感情が沸いたのだろうか。
「マノンは死んでしまったんだという思いでした。舞台にすごく集中していたと思います。一幕の登場のときは少し足が震えていたのですが、進んでいくに従って自然と流れに乗っていきました。バレエ団一丸となって創り上げた充足感がありました」

「Tomorrow is another day」

 そして今夏、同バレエ団によるフレデリック・アシュトンの『二羽の鳩』に主演する。リハーサルもすでにはじまっているというが、いつも役作りはどのような形で入るのだろうか。
「準備としては、原作がある舞台については書籍を読んだり、疑問が沸いてきたことは自分で調べたりします。芸術監督の小林紀子先生や作品の指導をして下さる先生とのリハーサルを積み重ねていくことによって、パートナーと作品や動きの質についてより深めることができます。
『そこはAkikoはどう思ってるの?』というふうに先生やパートナーと話し、アーティスト達みんなで創りあげていきます。人間の心理を描くイギリスの作品は、本当に素敵だと思います。
 本番は終わっているのに、この主人公は本当はこう思っていたのではと、疑問や想いが残っていると、
幸運にも数年後にその作品に出合えたり、そのときにまたその役に新たに向き合える機会を頂いています」

 同バレエ団は 『ソリテイル』や『マノン』だけでなく、実在したロマノフ王朝の皇女を描いた『アナスタシア』など、人間の内面を深く掘り下げる作品上演が多い。ダンサーにとっては非常にやりがいはあるが、困難な時期など経験したことはあるのだろうか。
「困難でないときはなかったですね。ジュリー・リンコン先生がよく『Tomorrow is another day』と仰っていました。ある意味アーティストはハングリーでなくてはならないし、要求されたことに応えて自分を変えたい。自分を変えることが好きだったんです。違う自分になれるのが楽しかった。その手段が私にとってバレエなんだと思います」

 『二羽の鳩』の主演は約10年ぶりとなる。役への取り組みや解釈などに変化は感じているのだろうか。
「本当に厳しいリハーサルでも、舞台が終わるとどれも素敵な思い出になります。ちょっと大げさなんですけど、ひとつの舞台を終えると10年ぐらい経ったような感覚を受けるんです。すごく作品に集中しているので、舞台が終わるとあまり記憶に残っていない感じです。どんどん価値観が変わってゆくことで成長するので、前の自分を繰り返すのでなく、今の自分でどのように音楽を聴いて、どう表現するのか、毎回新しく変えてゆきたいという思いでリハーサルに挑んでいます」

 

C)Takao Sakai

==プロフィール==
 4歳よりバレエを始める。1999年小林紀子バレエ・シアター入団。00年新国立劇場バレエ団登録ダンサーソリストとなる。02年小林紀子バレエ・シアタープリンシパルに昇格。01年マクミラン振付『ソリテイル』の少女役に抜擢。以降、古典から近代作品まで幅広く主演。主なレパートリーに『マノン』『アナスタシア』『眠れる森の美女』『The Invitation』『グローリア』 『三人姉妹』『コンチェルト』『ザ・レイクス・プログレス』『二羽の鳩』『ジゼル』『ラ・シルフィード』など。01年舞踊批評家協会新人賞、07年中川鋭之助賞、09年橘秋子賞優秀賞、12年服部智恵子賞受賞。

公演情報

小林紀子バレエ・シアター第110回公演
〈アシュトン/マクミラン・プログラム〉『二羽の鳩』『ソリテイル』
2016年7/1(金)~3(日)新国立劇場 中劇場
http://www.nkbt-tokyo.com/perform.html

※島添亮子は『二羽の鳩』に出演